Strengthvol.02
ADAS(先進運転支援システム)が進化し、自動運転レベルが向上してくると、求められる技術の一つにデータの高速伝送がある。なぜならば、安全性を重視する際、リアルタイムな対応を求められるからだ。例えば、急に人が飛び出してきた時のブレーキ動作を想像してみよう。センシングやビューイングで認識した信号の伝送が遅延することでブレーキ動作が遅れ、制動距離が長くなることは容易に予想される。そのため、より精度が高く、より短時間で大容量の信号を伝送できることが必要不可欠な技術となる。
機器が作動するまでの時間をできるだけ短くし、人間が行う動作と限りなく同じにするにあたり、自動運転をサポートする機器は日進月歩で進化し、優れたものが次々と開発されている。これらの通信機器の能力を最大限に生かし、活用するケーブルとして、高速伝送が可能な通信線が必要とされている。それは、ツイストペアケーブルやツイストクアッドケーブルで、これらは外部からのノイズに強く、信号を高速で伝送できることから、その価値は非常に高い。そして、これらのケーブルには、ケーブルとしての品質をさらに高めるSWCCの技術がぎっしり詰まっている。
高速伝送ケーブルを目指すにあたり、必要な技術は高周波領域においても、信号の減衰がほとんどなく、伝送できることである。信号波がどのように減衰したかを表す指標として、挿入損失(dB/km)がある。一般的に導体抵抗値(Ω/km)と静電容量(F/km)が小さいほど挿入損失特性が優れ、減衰定数αは以下の近似式で求められる。
しかし、信号の減衰要因の一つとして、ある特定周波数において急激な減衰量が落ち込む現象「サックアウト」が存在することが分かっている。サックアウトは送信信号の周波数と反射した信号の周波数の共振で発生すると言われている。この共振周波数はツイストペアケーブルの撚りの条件により改善することが可能である。
信号線を通る信号の速さの逆数を伝搬遅延時間という。ケーブル内の信号線は撚りを加えることでらせん状となる。しかし、撚りを加えれば加えるほどケーブル内の信号線の長さは長くなり、信号の伝播距離が伸びることになる。一般的にツイストペアケーブルの場合、2心間の信号伝搬遅延時間差が発生する。これを対内スキューと言い、対内スキューを低くすることにより、高周波での挿入損失が改善可能である。対内スキューを低く抑えるには信号線の実効誘電率、撚りによる心線の長さの差、心線と心線との距離を一定に保つコントロールが求められる。つまり、撚りを極めることによって限りなく対内スキューを0に近づける技術が必要になる。
入力信号の周波数が高ければ高いほど、導体の表層部分の電流密度が高くなる性質がある。これを、「表皮効果」と言い、表皮の厚さ(スキン・デプス)は以下の式で表される。
導体が銅の場合、約100MHzの周波数では表層から約0.007mm部分でほとんどの伝送信号を送っていることになる。また、導体の表層部分はサブミクロン単位で凹凸があり、凹凸によっては伝送特性へ影響をもたらす可能性がある。さらに、導体に被覆した絶縁電線の被覆厚さ、導体と絶縁被覆が同心円上からずれていると、特性インピーダンスの変動が生じる場合がある。このように、(1)表皮効果 (2)導体表面の平滑化 (3)高い同心度、これらの要素を上手く組み合わせる技術が、高速伝送ケーブルの伝送特性の向上に貢献している。
ツイストペアケーブルは、その構造上、外部からのノイズに強い([Advance] case02参照)。しかし、信号線が密集したり、インバータなどの高電圧線からのノイズは完全に遮へいできない。そこで、遮へい構造を付与することで、外部からのノイズをキャンセルすることが可能になる。なかでも、金属箔付きプラスチックテープと金属遮へいを施した二重遮へい構造は、遮へい能力をさらに高めることができる。このように、遮へいターゲットに対する編組密度の設計や、遮へい材に電気抵抗および透磁率を考慮した金属材料を選定する技術も必要となってくる。
金属 | 体積抵抗率 10-8Ω・m |
透磁率 |
---|---|---|
銅 | 1.72 | 1 |
銀 | 1.62 | 1 |
金 | 2.4 | 1 |
アルミニウム | 2.75 | 1 |
マグネシウム | 4.5 | 1 |
亜鉛 | 5.9 | 1 |
黄銅 | 6 | 1 |
ベリリウム | 6.4 | 1 |
ニッケル | 7.24 | 250 |
鉄 | 9.8 | 300 |
鉛 | 21 | 1 |
パーマロイ | 16 | 10000 |
車載用高速伝送ケーブルは、どのような走行環境でも視認した信号を瞬時に送ることができる。また、さまざまな環境を考えた場合、物理的な強度にも耐えられるケーブルが理想だ。このように、伝送ケーブルに求められる要求は非常にハードルが高い。自動車はイレギュラーな動作指令があった場合でも全て車側で自己完結し、車自身が判断して瞬時に次の動きに移らなければならない。伝送ケーブルは人間の機能で例えるならば、動くための神経器官である、すなわち伝送能力を高めることが、車載技術の中でも非常に重要なのだ。自動運転に関する周辺機器が日を追うごとに進化してくると、完全自動化も現実味を帯びてくると思ってしまうが、機器をつなげるケーブルの品質が不十分では、なかなか完全自動化は難しい。緻密さが要求されるケーブル開発において、製造・加工・材料技術のベストな組み合わせこそ、真の高速伝送の試金石なのだ。