第1部 特別対談講演会
芝浦工業大学 磐田朋子副学長、SWCC株式会社 長谷川隆代会長、ヤンマーホールディングス株式会社 白藤万理子取締役という、異なる背景をもつ3名のリーダーよりDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)と技術がどのように結びつき、新たなイノベーションや価値創出につながるのかを、講演者の経験とともに紐解きます。
Session1特別講演
~超多様性が生むシナジーとは?~
本イベントでは、多様性を超えた「超多様性」という考え方をベースにしています。 では、この超多様性によって生まれるものとはどのようなものなのでしょうか。
このセッションでは立場の異なる3名から、超多様性とシナジーについて、それぞれの分野や経験をもとに語っていただきました。
磐田 朋子
芝浦工業大学 副学長
DE&I 推進室 室長
(SDGs推進室 室長 兼務)
イノベーションは多様性の中から生まれる
新しい技術や発想は、特定の分野や価値観の中だけで完結するものではなく、異なる視点や背景が交わることで生まれると考えています。大学という場は、研究を深めるだけでなく、多様な人や考え方が交差する環境を意識的につくることで、イノベーションの土壌を育てることができる場です。
再生可能エネルギーの研究に、多様性が欠かせない
再生可能エネルギーの研究を進める中で実感したのは、単なる技術の問題ではないということ。地域住民の理解や行動、合意形成の進め方など、人の心理や社会構造も含めて総合的に考えなければ、良い社会はつくれません。そのため、理系分野にとどまらず、行動心理学や社会学など、異なる分野の知見を横断的に取り入れてきました。
例えば農業であれば、エネルギー利用の話だけでなく、後継者不足や就労者不足といった課題と組み合わせて考える必要があります。林業でも同様に、森をどう活性化するかだけでなく、担い手をどう支えるかという視点が欠かせません。
こうした課題に向き合うには、多様な専門性を持つ人、多様な立場の人と関わりながら進めていくことが不可欠です。
研究と多様性は切り離せない関係にあります。異なる価値観や分野が交わることで、初めて見えてくる課題や解決策があります。より良い社会を創るためには多様な視点を持ち、多様な人々と関わって総合的に進めていくことが重要だと感じています。
長谷川 隆代
SWCC株式会社 代表取締役会長
研究者として培った「超多様性」
研究者だった頃、立場のある研究者が発表した通説と異なる実験結果となり、私は勇気を出して学会に発表しました。ところが、その場では立場のある研究者から厳しく否定されました。
しかしその後、海外の研究者から「自分も同じ結果を見ている。でも発表できなかった」と声をかけられました。そこから一緒に研究を進めることになり、丁寧に検証していくと、どうやら私たちの反応プロセスの方が正しいことが分かりました。
さらに、その成果を共有すると、アメリカのメーカーの技術者が「このプロセスが使えるなら、これまでとは全く違う材料や製品がつくれるのではないか」と関心を示してくれました。すると別の研究者が「それなら、こんな応用もできるのでは」と新たな視点を加えてくれました。一つのきっかけが、多くの研究者に連鎖し、結果として世界を巻き込む研究へと広がっていきました。
立場や国、専門分野の異なる人たちが関わったからこそ生まれた成果であり、これこそが多様性の力だと実感した出来事です。
多様性が生む経営者としての推進力
経営においても、性別や年齢、国籍にこだわらず、さまざまな人と関わり、意見を聞き、自分の考えを伝え合うことの大切さを感じています。私が社長に就任した時、工場の現場の人から「今度社長になったんだ。今までやったことないことをやってよ」と言われ、とても嬉しかったことを覚えています。同質性にこだわらず、多様な人材と意見交換をする素晴らしさを感じました。
年齢や国の違いを超え、共通の目的に向かって進んでいくこと。その"あり方"こそが「真の多様性」だと考えています。
白藤 万理子
ヤンマーホールディングス株式会社取締役
サステナビリティ推進部長(CSuO)
多様な熱意が重なり合ったプロジェクト
「天然資源に依存しないシラスウナギの完全養殖」に挑戦した当社の取り組みを紹介します。船やエンジンで培ってきた技術を応用し、効率的な水槽を開発することで、コストを抑えながら新しい仕組みを形にしていきました。
このプロジェクトは、水産業界だけでなく、ヤンマーのような機械メーカーのエンジニア、魚の研究者など、異なる分野の人たちが関わっています。
専門、経験、考え方の違いが交わることで、発想が転換され、新しい可能性が生まれます。意見がぶつかることもありましたが、共通していたのは「良いものをつくりたい」という熱意でした。その熱中があったからこそ、イノベーションにつながったのだと思います。
多様性は、組織の力になり、未来をつくる
私が目指しているのは、一人ひとりの多様な力を、組織の力へと変えるエンジンのような存在になることです。誰か一人の才能ではなく、多様な人材の想いや強みが重なり合い、未来を動かしていく。その流れを生み出すことが、私自身の役割であり、これからも大切にしていきたい仕事の在り方です。
ヤンマーは「HANASAKA~人を、未来を、咲かせよう~」という価値観を大切にしています。ヤンマーはこれからも人の豊かさと自然の豊かさを両立する社会を目指し、様々な技術開発に取り組んでいきたい、そして私はそれを応援していきたいと思っています。
Session2 講演者対談
想いが未来を創る~そのために私たちが乗り越えたこと~
このセッションでは、立場の異なる3名の講演者が「より良い社会をつくりたい」という思いを原動力に歩んできた道のりに迫ります。理想を追う過程で直面した困難や葛藤、そしてそれをどう乗り越えたのか、具体的なエピソードをお話いただきました。
さらに、講演者同士の対談を通じて、挑戦を続けるためのヒントや未来への視点を共有しました。
白藤 万理子
ヤンマーホールディングス株式会社取締役
サステナビリティ推進部長(CSuO)
"正解がわからない"から始まった道のり
障がいの有無に関係なく、誰もが自分らしく活躍できる環境をつくりたい。その取り組みは、最初から正解が見えていたわけではありません。障がいのある社員が多く在籍する特例子会社の社長として、障がい者雇用に携わり始めた当初は戸惑いも多く、試行錯誤の連続でした。それでも、現場で一生懸命に向き合うメンバーには、誇りを持って働いてほしいという思いがありました。
現場の話を聞く中で、昇格制度が行き詰まり、将来の目標を描けない社員がいることも分かってきました。そこで、ひとつの道に縛られず、キャリアを選択できる仕組みづくりに取り組みました。
大切だと感じたのは、障がいを正しく理解することです。理解が進むにつれて、私自身のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見や思い込み)は少しずつ薄れていきました。その経験は、障がいの有無に限らず、国や文化など異なる価値観を理解する姿勢にもつながっています。「正しく知ろうとすれば、必ず分かり合える」、今ではそれが確信となりました。
磐田 朋子
Q.環境を整えれば、障がいの有無に関わらずどんな社員も活躍できるのだ、と実感した出来事はございましたか?
白藤 万理子
A.障がいのある社員が働く中では、どうしてもさまざまなハードルが生まれます。それを「できない理由」として捉えるのではなく、まず自分自身のことを障がいも含めて受け入れた上で、「この環境の中でどうすれば乗り越えられるのか」を一緒に考えてきました。
一年、二年と仕事を共にする中で、「この障がいがあるからここは苦手だろう」と一般的に言われているイメージを覆すような成長を、実際に目の当たりにすることがありました。
そのときに気づいたのは、「成長できない」のではなく、私たち周囲が無意識のうちに、その人の成長や可能性を狭めてしまっていたのではないか、ということです。成長のスピードには個人差がありますが、自分で「こうなりたい」「ここを目指したい」と描ける環境や仕組みさえ整えば、人は必ず成長していく。その確信を持てた出来事でした。
長谷川 隆代
SWCC株式会社 代表取締役会長
研究室解散の危機を乗り越えたチームビルディング
2000年頃、会社の業績悪化により事業の見直しが進み、超電導技術の研究開発もやめざるを得ないかもしれないと聞かされました。研究が好きで、このテーマに取り組みたくて会社にいるメンバーもいるなか、続ける道はないのかと考え、一人ひとりと面談を重ねました。
話し合う中で見えてきたのが、国のプロジェクトへの参画や共同研究という選択肢です。そのためには、自分たちの強みやコア技術は何かを正しく理解すること、そしてチームリーダーである自分がメンバーとしっかりと対話を重ねて強固なチームを築くことが重要だと考えました。
研究開発は一人ではできません。チームが分断されれば、目標そのものを描けなくなります。この経験を通じて、リーダーとして人と向き合い、同じ目線で対話することの大切さを強く実感しました。対話を重ねることで互いを理解し、多様性が広がっていく。研究でも、経営でも、人は対話なしには前に進めないのだと学んだ出来事です。
白藤 万理子
Q.超電導という技術に着目されたきっかけは、どのようなことでしたか?
長谷川 隆代
A.入社して2~3年目の頃、超電導の研究が一気に注目されるようになりました。当時は、この技術がどのような材料で成立するのか、どう制御すればよいのか、そして実用化には何が必要なのか、誰もはっきり分かっていない状態でした。
だからこそ、誰も知らない領域に踏み込み、自分たちで手探りしながら開発を進めていくことに、大きな面白さを感じました。「これは世界で初めてかもしれない」「世の中にまだ存在しないものだ」という発見の連続が、研究の原動力になっていたと思います。
磐田 朋子
芝浦工業大学 副学長
DE&I 推進室 室長
(SDGs推進室 室長 兼務)
進む道がわからなくても、手探りで進んでいく
私の原点には、エネルギーをめぐる戦争への強い問題意識があります。再生可能エネルギーを主体としたエネルギーシステムを実現し、世界平和に貢献したい。そう考えていましたが、では具体的にどんな職業を選べばよいのかは分かりませんでした。
研究室を出る頃、周囲の学生の多くはエネルギー関連企業へ就職していきました。しかし当時、再生可能エネルギーを正面から扱う企業はほとんどなく、自分がやりたいことを本当に実現できるのか、不安もありました。むしろ、国としてエネルギー政策や研究に向き合う機関に身を置くべきではないか。そんな思いから、国の研究機関なども視野に入れ、行けるところまで行ってみようと、半ば手探りで進んできました。
その経験を通して学んだのは、最初から具体的な職業が見えていなくても、自分を成長させてくれる場所に身を置き、目の前の仕事や課題に全力で取り組む。そうしているうちに、次に進むべき道は自然と見えてくるという経験をしました。
長谷川 隆代
Q.もう一度、道を選び直せるとしたら、どういった道を選びますか?
磐田 朋子
A.エネルギーを生み出す仕組みを考える立場として、現場のエンジニアとしての経験を積み、メーカーの立場でものづくりに直接関わるという経験をしておけばよかったという思いは今でもあります。
そのうえで今の研究者の道を進んでもよかったのかな、と。
磐田 朋子
反対に、長谷川さんだったらどんな道を選びますか?
長谷川 隆代
経営者にはならずに、ずっと研究職を選んでいたかもしれません(笑)
Session3 質疑応答
講演会後半では、学生から3名に向けての質疑応答がありました。
「今」や「将来」に悩む学生からの質問に対しても、3名の視点の異なる回答がありました。
Q.就職活動の際に、どのような基準で企業や進路を決めましたか?
白藤 万理子:
サービスよりも、暮らしを支えるものづくりに魅力を感じていました。女性が少ない業界でしたが気にせず挑戦しました。
ヤンマーを選んだ決め手は、選考を通じて先輩社員が親身に応援してくれたことです。最後は直感で、この会社ならやっていけると感じました。
長谷川 隆代:
私の就職活動の時代は、企業が大卒の女性を採用すること自体が難しく、選択肢は多くありませんでした。募集に「女性も可」と書かれていなければ、就職試験を受けることができませんでした。進路を選んだというより、入社できた会社に進んだというのが実情です。
磐田 朋子:
自分を成長させてくれる環境かどうかを重視しました。尊敬できる研究者や経営者、目標にしたい先輩がいる場所なら成長できると思ったからです。
Q.学生時代に「やっておけばよかったこと」は、ありますか?
磐田 朋子:
留学です。海外の人と仕事を通じて関わる中で、その国の歴史や文化が人を形づくっていることを実感しました。日本との背景の違いを理解したうえでやり取りするスキルは、学生のうちに身につけておきたかったですね。
長谷川 隆代:
もっと本を読んでおけばよかったです。分野は何でもよく、自分の中に多様な言葉や考え方を蓄えることが大切だと思います。一つの価値観に閉じこもらず、知識を入れ続ける。表面的な答えではなく、その奥にある本質を考える力は、読書から養われると感じています。
白藤 万理子:
大学では経営学を学びましたが、マクロ経済や経済学全般を、もっと広く学んでおけばよかったと思います。視野を広げて、今の自分に何が必要か、どんな学びが将来につながるかを考えながら勉強するとよいと思います。
Session4 次世代へ向けてのメッセージ
磐田 朋子:
勇気を持って、自分の知らない世界に飛び込んでほしい。これまで接点のなかった場所にこそ、自分の価値や新しい可能性が見つかることがあります。
長谷川 隆代:
これからの時代は情報があふれています。たくさんの情報の中で自分が何者か、これから何をすべきかということを見ていかなければならない。だからこそ、思い込みを手放し物事の本質をしっかり見る癖をつけてください。またチームビルディングでは思い込みなしに相手と同じ目線で話しフラットに対応することは、これから生きていくうえで重要になると思います。
白藤 万理子:
私は能力は高い低いではなく、多様性として捉えています。人と比べて自信をなくすこともあるかもしれませんが、一人ひとりの力には必ず価値があります。社会を変えるのは一人では難しく、小さな積み重ねと周囲との連携が必要です。肩の力を抜き、自分自身や多様性を受け入れながら、挑戦を続けてほしいと思います。
第2部 パネルディスカッション
「"静と動"のテクノロジーは多様なヒトと生きる」
パネルディスカッションでは、「"静と動"のテクノロジーは多様なヒトと生きる」と題し、イノベーションの探求を目的としました。異なる専門性と経験をもつ4名の登壇者が、自身の経験から学んだ考え方や、学生へのメッセージをお伝えしました。
Session1「異分野・異世代との協働の価値」について
このセッションでは異なる専門性や世代間の協働がもたらす価値についてパネリストで議論しました。
才木 みゆき:
専門や立場が異なる人が集まることで、視点は大きく広がります。役職に関係なく意見を言い合える雰囲気づくりを大切にしており、若手や学生も自由に話せる環境を意識しています。自分の発想を起点に、ぜひ多くの人と対話してほしいです。
佐野 達郎:
チームで一丸となり、お客様視点で提案することを重視しています。現場経験が長かった分、常に現場の声を聞き、設計と現場の違いを理解することを心がけています。
才木 みゆき:
世代の違いから学べることも多くあります。上の世代からは経験やセオリーを、下の世代からは新しい発想を学べる。世代を超えて話すことが、新しい力につながります。
Session2「現場での突破力と失敗からの学び」について
このセッションでは、現場での失敗経験から得られる学びと突破力について、パネリストの経験をもとに議論しました。
富樫 太一:
入社6年目、アメリカのお客様向け試験で予期せぬエンジン停止が起きました。日本側に相談できず、言葉の壁もある中で、冷静に問題を整理し、図を使って説明しながら調査を進めました。その日のうちに原因を解決でき、論理的な問題解決は世界共通だと実感しました。
田渡 未沙:
入社5年目に原因不明の不具合へ対応した際、焦るあまり視野が狭くなり時間を浪費してしまいました。先輩の助言で原因究明に集中し、関係者と議論を重ねる中で、信頼できる製品づくりには柔軟な発想が重要だと気がつきました。失敗は学びに変えることで成長につながると実感しました。
Session3「自身と他者の視点の違いとその融合」について
このセッションでは自身と他者の視点の違いと、それが融合することで生まれる新しい価値について議論しました。
富樫 太一:
予期せぬ問題が起きたとき、自分の視点だけでは見落としが生まれます。現場の人やお客様など、多様な視点を取り入れることで、早期解決につながった経験があります。
才木 みゆき:
違いは壁ではなく、議論を広げ、新しい発想を生むきっかけです。違いは次に進むための扉だと考えています。
佐野 達郎:
まずはチームとして、どんな課題を解決するのか、目的を共有することが大切です。目的が一致すれば、考え方の違いは強みになります。
田渡 未沙:
ダイバーシティ活動を通じて事務系や異分野の方々と協働する中で技術の伝え方が変化し、その学びが次世代育成という新たな価値につながっていると感じています。
Session4 次世代へのメッセージ
田渡 未沙:
失敗を恐れずに未来を創ることで過去の経験が書き換わっていくということを経験しているので、未来を創っていく、行動していくってことが非常に大事だなと思っています。
佐野 達郎:
対話を通じて生まれるものがほとんどだと思っています。だからこそ、自ら感じ、仲間と対話し、共に未来を創っていきたいと考えています。皆さんとも、ぜひそのように歩んでいきたいです。
才木みゆき:
皆さんにぜひ知見を広げていただきたいと思います。さまざまな人が組み合わさることで新しいものが生まれますが、それぞれが持つ知識や経験が広がれば、さらに新しい価値が生まれていくと感じています。ぜひ皆さんも知見を広げて挑戦してみてください。
富樫 太一:
未知の世界に飛び込む場面は多いと思いますが、自分を高めるためには何事にも挑戦してほしいと思います。新しいアイデアが生まれる一方で、さまざまな問題も起こりますが、それに向き合うためのしなやかな心が今後ますます重要になります。皆さまの今後に少しでも役立てばうれしく思います。
最後に
本講演は、大学、企業、世代や専門分野を越えた登壇者の対話を通じて、DEIと技術が融合することで生まれる可能性を、参加者一人ひとりが具体的に感じ取れる機会となりました。
芝浦工業大学、SWCC、ヤンマーの三者は、今後もダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)の推進を軸に、教育・研究・社会実装をつなぐさまざまな発信や取り組みを続けていく予定です。
本講演が、参加された皆さまにとって、自身の学びや行動を考えるきっかけとなれば幸いです。