第1部 特別講演テクノロジーのイノベーションとダイバーシティの重要性
どうして日本社会で理系女性が少ないのか
また社会の構造にどんな問題が潜んでいるのか
理系を学ぶ学生さんにとって今どれだけチャンスに溢れてるかをスプツニ子!さんに語っていただきました。
スプツニ子!さん 講演のポイント
今理系を学んでいる皆さんはチャンス!
- 多様な視点がイノベーションに直結することが広く知られてきた
- 企業に多様な視点を入れるため、理系を勉強している女子学生は引っ張りだこ
- 日本の企業は自動車など製造業、エンジニアの会社が多く、理系出身者は生涯年収も高い
どうして日本社会で理系女性が少ない?
- 女性の方が進学率が低いのはOECDで日本だけ
- 日本の理系女性率はOECDで最低
- 日本の女性は数学能力が高いにも関わらず、理系を志望しない
- 「女の子に数学は向かない」という思い込みが大きく影響している
理系の女性が少ないと社会の構造にどんな問題が?
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テクノロジーやサイエンスの分野で、女性の課題や女性の視点が研究から抜け落ちてしまう
(例)日本でのピル承認までの遅さや無痛分娩の普及率の低さ、自動車事故での女性の重症率は男性の1.5倍など
理系女子支援系のNPOや取り組みの紹介
- 理系女子を応援するのは不公平ではなく、社会全体の価値観の偏りや構造を是正するため
- 女子学生のロールモデルになりうる女性の研究者をメディアで取り上げるなど、理系女性を増やしていく取り組みが大事
第2部 トークセッション技術の世界で輝く女性の未来
特別講演を受けてのトークセッションでは、スプツニ子!さんに加え、芝浦工業大学磐田副学長、SWCC西村社外取締役も壇上へ。自身の経験や考えをもとに3つのトークテーマを横断しながらざっくばらんにお話しいただきました。
【トークテーマ】
- 障壁に感じたこと、組織としての対抗策
- アンコンシャスバイアス
- 女性から見た男性の生きづらさ
理系を志したきっかけ
元々数学が大好き
両親が2人とも数学の研究者で、大学の教授してました。もうガチガチ理系が身近だったし、高校時代数学大好きすぎちゃってですね、高校3年生を飛び級して1年飛び級してインペリアルカレッジっていうイギリスのMITみたいな理系の大学があるんですけど、ここに入学して数学とコンピューターサイエンスを勉強しました。
ゲームを攻略していくような面白さを数学に感じた
私は数学にゲームを攻略していくような面白さを感じて数学を専攻したんですけれども、当時叔父からは女が数学なんて勉強したって将来教職ぐらいしか仕事ないぞって言われたんですよね。教師が悪いということではないんですが、選択肢がないぞっていうことだと思います。
ところがその後もう一変しまして、私が卒業する頃には「ソフトウェアの開発技術者が足りない」ということで就職活動では引く手あまたでした。一流大手企業の中でどれにしようかなってこちらが選べるような状況でした。
テレビで見た「戦争によるエネルギー問題」
実は両親ともに文系でして。私の子供の頃に湾岸戦争があったんですね、今のちょうどウクライナ戦争のような形で。その時に戦争問題がエネルギー問題を引き起こすっていうのをテレビとかの情報を通して知りまして、何かエネルギーに関わる、持続可能な社会に関わるようなことをしたいなっていう漠然とした思いで。それにじゃあ自分の身を置くためにはどういったところがいいのかな?といったところからなんとなく消去法でですね理系の方に進んできました。その子供の頃にですねなんかロールモデルみたいなのを見てたっていうわけじゃないんですけれども、目的を持って理系の方に進める可能性というのもあるんだよって思っています。
「構造的差別」を声をあげて、変えていく
私の友人の話になりますが、大阪にご主人とお嬢さんを置いて、単身赴任してきたんです。
その時女性が単身赴任するってことが想定されておらず「単身赴任手当」って世帯主にしか支払われなかったので、交渉して認めてもらうようになったんです。「単身赴任するのはお父さん」ということの上での制度だったんですね。
だから、当事者が声を出すっていうのはすごく大事だなと思います。
私、東京藝術大学美術学部デザイン科で初めての女性の教授だったんですね。10人の教授がいて教授会が2週間に1回開催されるんですけど、この教授会、夕方4時半スタートで終わるのが夜7時。そうなると私の保育園のお迎えと完全にかぶってて。
新人の私がいきなり「教授会の時間変えてください」って言いづらいですよね。なので1年ぐらい我慢してようやく他の先生たちに言ったんですよ。他の先生たちが「全然気づかなかった~ごめんね!」って言ってくれて。
みんなでディスカッションして午後2時スタートに変えてくれました。
ここで重要なのが、他の9人の男性の先生たちって超いい人たち!悪者じゃ全然なくて、私をいじめようなんてことさらさら考えてないんですけど、彼らって私より20歳ぐらい年齢が上で、奥さん専業主婦とかパートみたいな人が多い。
保育園のお迎えとかぶってるなんて1mmも頭をかすめたことがなかったんですね。なので教授会の時間にも何の疑問もなかった。ただ私というアンテナが入ったところで言えて変えられたじゃないですか。女性に限らず若い世代の男性の教授も働きやすくなったはずで。構造的差別ってこういう地味なことの連続なんですよね。
同じように5時以降の会議がすごく多かったのが去年から解消されまして。
おかげ様で私も保育園のお迎えに行けるようになりました。
「気がついていない」というのが1番大きいんだと思うんですよね。
だから当事者がまず声を上げていくっていうのはすごく大事だと思います。
その声を上げられない状態っていうのが、構造的に色々まだあるのかもしれない。
スプさんがおっしゃってた通りですよ。
1年ぐらい我慢しましたね。なんかさすがに...と思って言えませんでした。
「こういうことが困る」「こうなるといい」っていうのが自分1人が考えてるんじゃない、他にも同じ思いをしている人がいると分かってくるとまた声も上げやすくなっていくのかなという風に思います。SWCCでは年代別の女性研修を通して、受講者同士の意見交換の機会を持っています。
無理やり女性の数だけ増やしたってしょうがないじゃないっていう声はありますが、数が増えていくことで同じような考え方の人たちが声を上げやすくなっていくっていうのはあるのかなって思います。
芝浦工業大学も「女子学生が少ない」問題を解決するための取り組みを進めています。以前は女性教員がいない学科もありましたが、近年では女性教員を最低1人置くよう定め、2018年の3月からは特別入試枠を設けて女子学生を増やしました。2024年度4月の学部女子入学者の割合は26.6%。これは理工系大学ではかなり高い水準です。現在は30%を目標に掲げていますが、最終的には当然50%を目指します。
女性からみた男性の生きづらさ
男子学生と話すと「いずれは自分が家を支えなきゃいけない」みたいなのって依然として残ってるんですよね。
それってすごい不幸だなと私は思って見てて。そんなところで変にプレッシャーを感じずに、今は女性も対等に働ける状況なので、むしろ働く女性と一緒に助け合っていくためには今自分にどんなスキルが必要なんだろうというところに思い立って欲しいなと思い、研究室で男子学生向けの料理教室を開いています。
うちの大学の場合、実家から通ってる学生も多く「家事の経験ないです」という学生も結構多いので。それだとこれからの社会女性も活躍できないんだ、君らが頑張ってくれないと未来の女性たちの活躍もどうしても遮られてしまう可能性があるんだよっていうことも説明しながら取り組んでいます。
私より下の世代だと東京だともはや70%近くが共働きのカップルで。だから男性も女性も2人ともフルタイムで働いて子育てするみたいなパターンが多いんですね。ただ日本企業ってこれまで「家事育児介護全部女性に丸投げしている男性」っていうモデルでデザインされてるじゃないですか。このデザインが変わらないと若い世代の男性も働きづらい。
一生懸命家事も育児も頑張ってるけど、会社からは昭和の丸投げモデルの働き方を求められる。
ダイバーシティ推進は男性vs女性ではなく、昭和vs令和の対立なんです。
自分を縛るアンコンシャスバイアス
世代の話がありましたけど、共働きで働いていても「最後の最後は経済的に家族を支えるのは男の役目だ」って擦り込まれちゃってるっていうのがまだ若い人の中にもあるのかなっていうのは思います。
女性という文脈で、私は家事も子育てもやんなきゃいけない、そうするときっと忙しくなって責任の重い仕事は無理だわと思い込んでしまう。やってみれば色々大変なことはあるかもしれないけど、協力してもらったり、構造的な問題、制度とかを直してもらうように声を上げたりもできるのですが、その前に「無理かもしれない」ってなってしまうっていうのが問題だと思っています。
どうしても「育児や家庭を私がやらなきゃいけない」という意識っていうのは依然として私の中にもあるのかなという風にはちょっと思ってるんですね。パートナーも支えてくれるので、ただ私がマインドチェンジをすればいいだけなんですけども、仕事との両立で考えると長時間働いたり、依頼された仕事を受けなかったりすると評価が下がるんじゃないかという恐怖感と戦いながら、でも家庭も大事にしたいと。本当に何に重き置くかは人それぞれだと思うんですけど両方取りたいんですよね、欲張りなことに。
昔であれば、いっぱい働く人が給料上がるからもっと働けみたいなロジックが通用しましたが
今は、最悪収入が減ってもいいから家庭とのバランスを取りたいと思っている人たちが男女共にいるんだということに社会全体で気づいて、それをバックアップできるような動きが広がれば、ジェンダーに関わらず無理なく楽しく仕事をできる環境が整ってくるのかなと思っております。
ジェンダーに捉われずに 自由になって
今って男性でも女性でもどんなジェンダーでも自分の好きなように生きる選択肢と権利がある時代になるべきだし、そこに向かって進んでると思うんですよね。見に来てくれている学生さんには本当に「自分は何が欲しいんだろう」「自分はどう生きたいんだろう」っていう声に忠実になってほしいなと思います。
「男が大黒柱じゃなきゃ」って男性も苦しめてると思うんです。別に男性がみんながみんな「戦って勝つ」みたいなカルチャーの中でいなきゃいけないなんてことは全くないので、男性がサポート役になってもいいし女性が戦ってもいい。どっちも入れ替わりながら人生進んでもいい。
私、スタートアップの起業の真最中に妊娠出産して、すっごい元気だったんで育休取らずにすぐ働いてたんです、実は。夫が育休取ってくれたんですね。今彼も起業家で忙しいけど、お互いに家事育児はスプレッドシートで管理してます。データで見ると喧嘩にならないじゃないですか。客観的に見えるから。
そんな感じで家庭を運営してる人もいるし、いろんな人がいると思うので、ぜひ女性も男性も捉われず自由になってほしいなっていう思いが強いですね。
第3部 質疑応答
申し込み時にいただいた質問、会場にご参加いただいた来場者の方からの質問にお答えしました。
多様性を束ねるのは難しい?
ダイバーシティを推進していくと、1つの組織の中で、異なる背景であったり考え方を持つ人たちを束ねて統合していくことに困難が生じ始めるのではないでしょうか?
多様な人がいるっていうのは確かに「阿吽の呼吸が効かない」っていうのあると思います。
でも、多様なリスクに目を向けられない組織になっちゃってるっていうリスクがあるんですよね。
グループシンクっていう言葉があって、多様性がない組織で起きる弊害のことを表します。
多様な視点がないとその組織が自分たちの持つリスクを認識できずに弊害が出ると言われています。
「コンフリクトを楽しむ」というか。お互い意見が色々違うけど、その方がフラットに議論し合えたり、風通しが良くなったりとかっていう利点があるかなと思います。
価値観とか背景ってダイバーシティの深層的なもので、100%理解することは私は無理だと思っています。
だけど、やっぱり先ほどスプさんがおっしゃったように、コンフリクトを楽しむ。
多様な視点があるっていうことが大事で、そのためには「相手をリスペクトする」っていうところから始める。
受け入れなくてもいいけどまずは受け止める。そしてお互いがより共通して向かえるところ、どこが接点になるかな?っていうのを探り合ってくということが必要かなと思います。
意見が違うからダメ。もう私には無理!ってしたら何の発展もないです。ダイバーシティっていろんな視点があるからいいんですよ。みんなが同じ意見で同じ視点だったら、何も新しいことは生まれないということをみんなが考え、意識すればいいと思います。
イベント参加者の声
- 私も理工系の女子としてこれから頑張っていきたいです。
- 自分自身も理系エンジニアで子育てしつつ働いていますが、まだまだ次世代にバトンを繋いでいく上で課題も多いと実感しました。引き続きこのような機会が増えて社会への一石になることを期待しております。
- 各方面でご活躍のみなさまの生の声が聞けて本当にためになりました。子育てをしながら、明るく活躍されているみなさまに刺激を受けて、自分も目指したいと強く思いました。
- 構造的差別やアンコンシャスバイアスを乗り越えるためには声を上げやすい環境作りが大切と学びました。管理職として実践出来ればと思います。
- 一人一人が自分の考えを過信せず疑い続け、他者の考えに興味を持ち尊重する姿勢がなければならないのだとSWCCの西村様のお話を通して考えさせられました。
- 娘の将来を想像しながら聴講したらワクワクした。高校生の娘にも聞いてもらいたいと思いました。
最後に
本講演は、来場者・オンライン含めて合計182名の方にご参加いただきました。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)推進を目的に、今後もさまざまな発信を行っていく予定です。