線材・巻線:マグネットワイヤ:マグネットワイヤ
マグネットワイヤ取り扱い上の注意
1. 皮膜の剥離方法について
エナメル線類の皮膜は極めて強靭で導体によく密着しているため、皮膜の剥離方法が問題となりますが、次の諸方法の中からエナメル線の種類および作業条件に応じて最も適した剥離方法をご採用下さい。
- ①刃物の先またはサンドペーパー等で削り取る方法
- ②機械的ストリッパーを利用する方法
- ③アルコールランプまたはガスバーナー等で焼き取る方法
- ④市販の剥離剤に浸漬する方法
- ⑤皮膜を剥離せず直接接続する方法(溶接法、直接ハンダ法)
- ・剥離剤を使用する場合は剥離剤がコイルの他の部分に付着しないよう十分に注意して下さい。
- ・剥離作業を行う際には保護眼鏡、保護手袋等の保護具を着用し、薬品、断線屑が目等に入らないよう十分に注意して下さい。
- ・剥離剤により皮膜を剥離する場合は、剥離剤使用上の注意事項をよく確認してご使用下さい。
2. 巻線後の加熱処理について
一般にエナメル線を曲げたり伸ばしたりしますと皮膜にストレス(歪み)を生じ、この状態のまま湿気、水、溶剤、薬品等に接触させますと皮膜に微細なキレツを生じて、ピンホールや皮膜剥離の原因となります。
この現象はウオータークレージングまたはソルベントクレージングといわれ、合成樹脂エナメル線のほとんどに見られる現象です。しかし、一度皮膜にストレスを生じたものでも加熱処理を行うことによってストレスがなくなり、クレージングを防止できます。これを熱処理効果(加熱処理効果)といい、加熱温度と時間に比例します。
最近のエナメル線はクレージング特性が非常に改良されていますが、コイル成型後あるいはワニス処理前に加熱処理を行うことをおすすめいたします。
3. ワニス処理について
ワニス処理は次のようにいろいろと大切な役割を果たしますので、エナメル線を使用した機器には熱処理後、ワニス処理を施すことをおすすめいたします。
- ①巻線部分を機器本体に固着させ、振動や衝撃に耐えうるようにする
- ②巻線部分を完全にシールして大気中の水分、塵、埃、ガスその他の有害な物質の浸入を防ぐ
- ③共用する繊維質材料(層間紙テープ等)に含浸し耐水性を与える
- ④コイルの耐熱性および寿命を向上させる
- ⑤金属部分の腐食を防ぐ
ワニスとしては一般にフェノール系、エポキシ系、シリコーン系等の合成樹脂が用いられますが、エナメル線の種類により相性等がありますのでワニスの選定は十分ご確認の上ご使用下さい。
4. 使用上の注意事項
4.1 保管方法
- ・保管は室内とし、高温、高湿環境下での保管は避け、直射日光を受けないようにして下さい。
- ・製品をむき出しにして塵や埃等に触れやすい状態で保管しないようにして下さい。(完全に包装し保管して下さい)
- ・酸、アルカリ、薬品ならびに有機溶剤等の近くに置かないで下さい。
- ・特殊雰囲気下(ガス類)での保管は避けて下さい。
- ・塵埃の多い所での保管は避けて下さい。
- ・製品を高く積み上げて保管しないで下さい。
- ・マグネットワイヤが他の物質とぶつからないように保存して下さい。又、マグネットワイヤ同士もぶつからないよう保存して下さい。
- ・製品の巻枠を転がして移動させますと線のゆるみ、もつれ等が発生し巻線時の断線等を引起こしますので巻枠は転がさないようにして下さい。
- ・運搬等の際に製品や巻枠に物をぶつけたり、汗をかいた手やハンドクリームのついた手で製品を扱わないようにして下さい。
- ・平角線について、横倒しにての保管は推奨いたしません。
4.2 保管期間
一般にマグネットワイヤは、4.1項に基づいて保管されますと、10年以上その特性は低下しません。
当社より納入後2年以上経過したマグネットワイヤは使用前に特性チェックして、問題ないことを確認した上で ご使用して下さい。但し、ボンド線(自己融着線)につきましては納入後1年経過したものは特性チェックして下さい。
4.3 作業上の注意
- ・塵や埃のない乾燥した部屋で作業して下さい。望ましくは10~30℃の室温下で作業して下さい。
- ・作業時は清潔な服装をし、油やゴミについた手で取扱わないで下さい。
- ・作業前に使用する機械の各部を点検し、異常のある場合は修理して下さい。
- ・マグネットワイヤの品名、種別、寸法をよく確認して上でご使用下さい。
- ・火気、静電気、衝撃火花等による着火原が生じるような場所での使用には十分注意して下さい。
- ・過酸化物、強酸、強アルカリ、強塩基、酸化剤及び、有機溶剤等の薬品との接触を避けて下さい。
- ・化学的な方法による皮膜剥離時は、皮膜から揮発するガス及び剥離剤は有毒なので排気設備を設置し、直接吸入しないようにして下さい。また手袋を着用下さい。
- ・コイル巻線時、断線する場合があるため保護眼鏡を着用して下さい。
- ・熱又は半田により皮膜を剥離する場合、皮膜が分解して発生するガスは有害なので、排気設備を設置する等の対策を実施し直接吸入しないようにして下さい。
4.4 コイル巻き時の注意
- ・使用前にワイヤの種類、寸法(外径、幅、厚さ)をご確認下さい。
- ・使用する金型、木型等の寸法、形状を調べ、角や突起物のないことを確かめてから作業して下さい。
- ・ボビンからマグネットワイヤを取り出す時、もつれや落込みで線を傷つけないように注意して下さい。
- ・張力を与える場合には苛酷な伸びを与えないよう張力を調整し、金属のような表面の硬いものを直接触れさせないで下さい。尚、自動巻線機は巻線線速が高速化され張力も大きく、金属面との接触の機会が多いため特に慎重な注意が必要です。
- ・巻線は、電気機器のコイル巻線に用いる電線につき、絶縁線、ビニル線のように屋内配線に用いないで下さい。
- ・巻線作業に先立って使用する電線の良否を点検する事が大切で、一般に次の事項に注意する必要があります。
寸法は電線製造時において検査合格しているものを使用するため、改めて検査の必要はないとも考えられますが、保管・管理その他の事情により、万一誤用の場合を考慮し、使用直前には必ず外径、幅、厚さを測定し、使用目的に適合するかどうかを確認する必要性があります。
特に裸線をコイル巻きにする場合には、線の表面の酸化皮膜ははんだ揚に支障をきたし、あるいはコイル絶縁中に酸化皮膜が微紛として剥がれ、絶縁物に混入する恐れがありますので、酸化皮膜の多いものは使用前に酸化皮膜除去を行ったほうが良いと考えます。
電線製作時における傷、擦れは電線検査の際に発見されますが、運搬又は保管中の取り扱い不良により外傷を受けている場合もありますので、よく検査し小さい傷は仕上げ、甚だしい場合には除去する必要があります。
アルミ導体の場合、紙巻線や綿巻線のように、繊維を横巻きしたものは取扱いが悪いと導体の変形があっても発見しにくいので、特に取扱いのときの注意が必要です。
コイル巻き後、残った線は塵埃、特に金属紛、湿気、直射日光を避けるような方法で保管します。
4.5 成型時の注意
- ・コイルを成型する金型あるいは木型は使用前に寸法、形状等を点検して下さい。
- ・コイル成型時にはエナメル線に曲げ、ねじれ、引張り、衝撃等の機械的ストレスが与えられるので、そのストレスを取り去るために加熱処理をすることをお勧めいたします。
- ・急激な曲げRでの屈曲は避けて下さい。やむを得ず加工する場合は屈曲部分の皮膜に多少の損傷を生ずるのは避けられないので、綿密な点検補修を行って下さい。
4.6 成型後の注意
- ・コイル成型後は運搬その他の取扱いでコイルを変形させたりしないように十分注意して下さい。
- ・コイルの並べ方、置き方を工夫し、また保管中は塵埃特に金属片や湿気を避けて下さい。
- ・各工程を経る間の運搬その他取り扱い中での、コイル形状の変形、被覆の損傷に注意してください。そのために取り扱い者各人の周到な注意と、コイルの並べ方、置き方を工夫し、適当な用具を利用する事も必要です。なおコイル保管中は塵埃とくに金属紛、湿気を避けるような方法をとらなければなりません。
- ・予備乾燥を省略する傾向がみられますが、巻線中に残るエナメル皮膜の歪や汗、湿気などがありますので十分な予備乾燥をして絶縁特性の向上を図らなければなりません。
4.7 コイル仕込み作業上の注意
- ・へらでこすったり、木槌で叩いたりあるいは曲げたりする時は鉄心の角や突起部又は、スロット出口部分などで摩擦擦傷により皮膜を傷めないように注意して下さい。
- ・コイル仕込み部の角や突起を無くしたり、スロット出口部分でマグネットワイヤに無理が掛からないようにして下さい。
4.8 エナメル線使用時の注意
- ・エナメル線は非常に薄い皮膜で絶縁性が保証されているので、鋭いエッジの工具、その他による外傷を受け易い点を十分銘記しておく必要が有ります。
- ・コイル巻する際、出来るだけ伸ばさないようにしなければなりません。伸びることにより皮膜厚も薄くなり特性が低下するためです。従って伸びが少なければ少ない程良いです。
- ・一般のコイルはコイル巻後ワニス処理されますが、その組み合わせについては慎重に考慮し、事前に相性を調査する必要があります。
5. 破棄上の注意
主材料が銅ですので可能ならばリサイクルして下さい。リサイクルが不可能な場合は産業廃棄物として処理をお願いします。廃棄する場合は、適切な方法で焼却又は埋め立てを行って下さい。
6. その他
この注意書はマグネットワイヤの一般的な諸注意事項を列挙して作成いたしました。
又、注意事項は通常の取扱いを対象としたものなので特殊な取扱いの場合には、用途、用法に適した安全対策を実施の上ご利用下さい。その他、製品の使用には安全教育等の実施をお願いいたします。